【あらすじ・感想】伊坂幸太郎|魔王|煽動される怖さ【おすすめ】

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こんにちは。

事実は小説より奇なり、とはよく言ったもので、現代では信じられない出来事やあるいはいわゆるフェイクニュースが跋扈していますが、逆に小説の中にはリアルな予見性のある作品があるのも「事実」です。

今回紹介する『魔王』(伊坂幸太郎)は、個人的な思い入れの強い(初めて読んだ伊坂作品(笑))作品でもあるのですが、どの世代の方にも一読してほしい作品です。

それでは、始めます。

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あらすじ紹介。

伊坂幸太郎の作品にはかなりシリアスな状況を書いたものが多いですが、日常から少しずつディストピアへ変容していく様がリアルに描かれた作品として本書をオススメしたいです。

鬱屈する社会の中に突然、スピーチの天才である若手政治家・犬養が出現。

彼が言葉巧みに大衆を煽動し、外国人へのヘイトをあおる勢いに危機感を感じた主人公・安藤は、自分にささやかな特殊能力が備わったことをたまたま認識し、それを使って犬養との対決を図る。

(ちなみに安藤主人公が身に着けた超能力とは、自分の心に思い描いたセリフを目の前の人間にしゃべらせることができる、というもの。それが届く物理的な距離も長くないため、使いどころは限られる。)

感想まとめ。

超能力の存在を「信じるか信じるかはあなた次第です」が、これは自分にできる、人にはないものを象徴する存在に過ぎないと個人的に解釈しています。

この作品の読みどころは、超能力と政治家の対決ではなく、大衆が全体主義的な性格を帯びて行動が過熱していく中で、個人は果たして何ができるのか、というものだと思います。

この作品に感情移入して危機感を臨場感豊かに体験しておくことは重要な経験なのではないでしょうか。。

こないだ、ある知識人のお話を直接伺う機会があったのですが、彼はこういう意味のことをおっしゃっていました。

教養とは、踏みとどまることのできる力である。何が真実なのか、自分の知識を総動員して蓋然性を持った判断をする必要がある。

ある知識人氏の講演より引用

「教養」というのは定義の難しい言葉だし、いわゆる「すぐには役に立たないもの」なので即効性のある勉強に比べるとないがしろにされがちな領域だと思います。

氏が仰っていたように、現代の大学システム上では教養を補う勉強をする時間が十分に取れるわけではなく、一般的な就職活動を済ませた後では勉強する気も起きないでしょう。

一種の危機感を臨場感を伴って自分自身に喚起するには、ある程度リアリティの伴った刺激的な小説によって、自分が危機的な状況に巻き込まれた事態を疑似体験することが非常に有用だと思います。

今回のテーマとは関係ないのですが、安藤には弟とその恋人がいます。本書は2部構成になっていて、後編の『呼吸』では彼らが主人公になるのですが、

安藤兄弟は、どことなく同じ伊坂作品の『重力ピエロ』に登場する兄弟に重なります。

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